Personal Project
個人研究
個人研究
現在の個人研究プロジェクト
「企業成長のモダン(現代)からネオ・モダン(新現代)への転換」という視点から、産業発展(特に第三次産業)と企業成長について日米企業を中心に研究しています。個人研究として、もともと現代企業の再検討のためアメリカ総合電機企業を対象にして研究していましたが、最近は米国メディア産業の形成から現在までの発展、スタートアップ企業とコングロマリット企業についての研究に取り組んでいます。また、共同研究を通じて、米国の電機産業企業、日本のコンテンツ産業企業についての研究を進めています。こうした研究とこれまでの研究成果を踏まえながら、経済・経営の歴史における「モダン」というコンセプトを改めて考えたりしています。
Current Personal Research Project
I am independently studying the changes of economic growth (esp. service sector) and corporate growth, focusing on the emergence of startups and conglomerate firms, the evolution of U.S. media industrial enterprises. With regard to collaborative projects, I also study the comparative history of electrical and electronics industries between the U.S., Germany, and Japan, as well as the development of Japanese content industries. These studies link to my primary research interest, "the transformation of modern business enterprises (toward neo-modern business?)," in order to explore the concept of business modernity within the histories of business and economy.
Funding Support
Project title: The Formation and Transition of Relationship between Electrical Manufacturing Conglomerate and External Organizations: A Comparison of the Four Leading Firms
(1) Japan Society for the Promotion of Science, Grant-in-Aid for Scientific Research (KAKENHI), Grant-in-Aid for JSPS Fellows, Ref. 09J09283) (Apr 2009 - Mar 2012) here
(2) Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) Excellent Young Researcher Overseas Visit Program The Researcher Overseas Visit Fund (Apr 2010 - Feb 2011)
経営・組織論研究における「歴史的転回」を議論する中で、歴史研究あるいは経営史研究の理論的接点はなにがありえるのかと考える機会がありました。そのひとつの解として考えたものが「歴史性」でした(最近、日本の経営史研究の初期に中川(1968)において「歴史性」という用語を使用していることを知る)。この考えが、どの程度意味のあるものなのかまだ分かりませんが、気長に考えてみたいと思っています。
経営史から言及した歴史性
「企業戦略の歴史性」 経営戦略学会第23回研究発表大会報告、2025年4月。here
「経営の歴史から未来を読み解く」明治大学大学院ブランディングサイト「新たなる知の創造を:インタビュー」、2025。 here
WH研究から言及した歴史性
「企業ドメインの歴史性:ウェスチングハウス社の企業転換に関する事例研究」『組織科学』第55巻第4号、2022(invited paper)。download
「企業ドメインの階層的ダイナミクスと組織アイデンティティ:ウェスチングハウス・エレクトリック社の事例分析、1886-2000年」『経営論集』第72巻第2号、2025(non-refereed)。download
その他参考文献
中川敬一郎「組織:その経営史的断想」『経済学論集』第 34巻第3号、1968。
Francois-Xavier de Vaujany et al. eds. Historicity in Organization Studies: Describing Events and Actuality at the Borders of Our Present. London: Palgrave Macmillan, 2025.
アメリカの総合電機企業(GEとWH)の研究から、好循環(ビナイン・サークル)をめざして企業戦略を策定していたことが示されました。そこでは、多角化事業をSICにもとづいて関連と非関連にわけて論じるのではなく、ビナイン・サークルを目指した戦略構想、そしてそれを支える戦略思想を踏まえた多角化先の決定が重要であることが示唆されます。まだ研究途中ではありますが、このテーマに関しては、下記の一連の論考でそれぞれ言及しています。
総合電機企業のビナイン・サークルと成長戦略
「GEの企業改革の歴史的経験,1892-2019:ネオ・チャンドラー・モデルに向けて」『経営論集』第67巻第4号、2020(non-refereed)。download
「戦後ウェスチングハウス・エレクトリック社の多角化と事業競争力:1950年代から1960年代までの戦略構想」『経営史学』第56巻第3号、2021(2022年経営史学会・出版文化社賞(本賞) / BHSJ-SBS Best Paper Award in 2022)。download
「ウェスチングハウス:2番手企業の多角化と組織革新」谷口明丈編『総合電機企業の形成と解体』有斐閣、2023。here
「ウェスチングハウス:消滅への道」谷口明丈編『総合電機企業の形成と解体』有斐閣、2023。here
「企業ドメインの階層的ダイナミクスと組織アイデンティティ:ウェスチングハウス・エレクトリック社の事例分析、1886-2000年」『経営論集』第72巻第2号、2025(non-refereed)。download
モダンな企業成長からネオ・モダンな企業成長への転換という考え方については、米国の電機企業2社の約50年間にわたる比較事例分析とともに、下記論考で触れました。
"Modern Corporate Growth after the Modern Economic Growth: A Comparative Study of General Electric and Westinghouse Electric, 1946-2000." In Theory and Empirical Performance: Economic Paradigm and Performance in the Long Run (18th to 21st century), edited by Dominique Barjot, Harm G. Schroeter, and Kazuhiko Yago, 131-143. Paris, France: SPM Publishing, 2022.
[update history: May. 1, 2022]
上記論考での要点は、次のようになります。
経済学者サイモン・クズネッツの「近代経済成長」という見解を踏まえながら、経営史家アルフレッド・チャンドラーは、(特に『スケール・アンド・スコープ』で提起した)「近代産業企業」の役割の重要性を主張しました。
本論では、近代産業企業の代表的企業でありながらも、20世紀末に対照的な企業変容を遂げたGE(General Electric Company)とWH(Westinghouse Electric Corporation)という総合電機企業2社の1946-2000までの比較分析を通じて、企業成長のあり方が、チャンドラーなどが主張するような企業成長とは異なっていることを考察しました。
より言うと、両社とも「近代(産業)企業」の特徴は維持しながらも、従来の近代産業企業とは違ったかたちの企業成長を遂げていた点を指摘しました。
ここから、戦後の米国総合電機企業2社に限った分析からの示唆ですが、戦後の米国近代企業の経営史は、企業成長のあり方をモダンからネオモダンに移行するプロセスであったのではないかと試論的に述べました。
※補足:チャンドラーの枠組みは、第二次世界大戦前までの考察を中心に組み立てられたものでありました。彼は、その考察を基盤にして、戦後の変化についても説明しようと試みたことが、その後の経営史領域における「ポスト・チャンドラー」論争のひとつの背景にあるかと考えています。もちろん、彼は、その後も実証研究を行い、自身の説明枠組みを拡張しますが、基礎となる企業成長の分析枠組みを維持し続けています。チャンドラー・モデルの変化については、拙稿「GEの企業改革の歴史的経験,1892-2019:ネオ・チャンドラー・モデルに向けて」において少し整理してみました。
なお、上記で説明した経営史のネオ・モダン論は、あくまで2社の事例分析からの試論的な考えです。決して経営史領域やそのほかの領域で「当たり前」として議論されているものではないので、その点ご承知おきください。
「チャンドラー・モデル」といわれるアルフレッド・チャンドラーの分析枠組みの変化については、完全ではないですが、下記論文で少し整理してみました。
「GEの企業改革の歴史的経験,1892-2019:ネオ・チャンドラー・モデルに向けて」『経営論集』第67巻第4号、2020。download
[update history: Apr. 1, 2021]
上記論考での要点は、次のようになります。
前期チャンドラー・モデル(the early Chandler's model)
垂直統合戦略から関連多角化戦略へと展開する中で、階層制組織の導入を伴いながら管理的調整が発展
その過程で、通量を増大させながら、規模の経済性や範囲の経済性といった市場的調整を超える経済効率が生まれて、企業成長が達成される
※より詳しくは、沢山ある先行研究を参照
後期チャンドラー・モデル(the later Chandler's model)
前期枠組みを維持しつつ、ラーニング(学習:知識の創造と獲得)という視点に基づいて、単体の企業成長から産業成長へと枠組みを拡張
その枠組みの鍵概念は、統合学習基盤(integrated learning base)といえる。
一番手企業群(first movers)の中で同質的競争が展開されながら、各国の各産業で統合学習基盤が形成される。
統合学習基盤とは、企業間競争の中で各企業が投資を通じて、様々な知識と経験から構築された組織能力(技術、各職能、経営の能力)を統合した構造を指す。
※なお、その組織能力は、(投資の仕方が異なったりして)各企業や産業に特有のものであり、習熟組織能力(learned organizational capabilities)と呼ぶ
各国経済の特定産業における主要なプレイヤーは、この統合学習基盤をいち早く構築した企業である。
※この統合学習基盤を構築した「中核企業」が、各国の特定産業における参入障壁、戦略の境界、成長の限界を規定するため、産業発展の方向を決定する。
この基盤を支えるものとして、補完的企業の存在(産業基盤)も大きな影響を与える。
この統合学習基盤のあり方(つまり習熟組織能力の統合構造)が、各国の特定産業(の企業)の競争力の源泉となる。
※その源泉は、生産の「静態的な」規模と範囲の経済性だけでなく、知識の「動態的な」規模と範囲の経済性の有無。
なお、チャンドラーは言及していないが、この枠組みでグローバル経営の歴史を考えた場合、それは、各国で形成された統合学習基盤(あるいは習熟組織能力の統合構造)の競争を通じた、グローバルな統合学習基盤の形成史となると考えられる(上記論文の注で説明)。
これは、従来のFDIの視点からの考察(e.g. ウィルキンズやジョーンズ)ではなく、組織能力の視点から捉える国際経営史研究の可能性を示唆している。
この見方に近い視点(i.e.国際競争への着目)から考察した経営史の著作としては、 下記のようなものがある。
湯沢威他編(2009)『国際競争力の経営史』有斐閣。橘川武郎他編(2016)『グローバル経営史』名古屋大学出版会。
ただ、上記論考の整理は、完全ではないので、よりきちんと整理したものを書きたいと考えてます。あくまで参考で
博士論文からGEとの競合企業としてWHを企業戦略の視点から論じてきました。WHの企業戦略史は、強い創業者像、家族的な組織風土、技術力の重視、戦後の典型的なアメリカ近代企業の経路、表面的な企業改革、事業転換の極端事例など、さまざまな歴史的示唆を示してくれます。このテーマに関しては、下記の一連の論考でそれぞれ言及しています。
戦前WHの企業戦略とトップマネジメント
「20世紀前半ウェスチングハウス・エレクトリック社のガバナンス改革:経営者企業への転換過程と企業家精神」『経営論集』第70巻第1・2号、2023(non-refereed)。download
「ウェスチングハウス:2番手企業の多角化と組織革新」谷口明丈編『総合電機企業の形成と解体』有斐閣、2023。here
戦後WHの企業戦略とトップマネジメント
「戦後ウェスチングハウス・エレクトリック社の多角化と事業競争力:1950年代から1960年代までの戦略構想」『経営史学』第56巻第3号、2021(2022年経営史学会・出版文化社賞(本賞) / BHSJ-SBS Best Paper Award in 2022)。download
"Diversification and business competitiveness of Westinghouse Electric Corporation in the postwar: Strategic plot from the 1950s to the 1960s." In Japanese Research in Business History, vol. 42, edited by Business History Society of Japan, 2025. download
「ウェスチングハウス:消滅への道」谷口明丈編『総合電機企業の形成と解体』有斐閣、2023。here
WHの企業戦略史からえる歴史洞察
「企業ドメインの歴史性:ウェスチングハウス社の企業転換に関する事例研究」『組織科学』第55巻第4号、2022(invited paper)。download
「企業ドメインの階層的ダイナミクスと組織アイデンティティ:ウェスチングハウス・エレクトリック社の事例分析、1886-2000年」『経営論集』第72巻第2号、2025(non-refereed)。download
日本では忘れ去られた企業であるWHは、創業者の精神を維持しようとしながら、時代に翻弄された過去の大企業でありました。このひとつの大企業の企業戦略の歴史は、アメリカ企業を理解することだけでなく、戦略ツールに「使われる」企業を回避するためのトップマネジメントに向けて歴史的示唆を提供してくれると考えています。