Miscellaneous Notes
経営史や研究に関する雑多なメモを、ブログのような感じで、気が向いたら書いていこうかと計画中
メモ書き程度のものなので、学術的な信頼性が担保されておらず、あくまで宮田個人の意見程度のものと捉えて下さい。
「工事中」が多いのは、気づいたときに書くため。きちんとした主張がみえてきたら、それぞれのトピックについて論文等で発表出来たらよいなと考え中。
「研究者な道」を知る上での参考文献
「歴史」「歴史家」を考える上で参考になるウェブ情報
[update history: Jan. 9, 2022]
アメリカ歴史学会による専門職行動基準書(Statement on Standards of Professional Conduct)-2019年改定版
日本語訳を下記URLから読むことができます。歴史とは、歴史家とはを考える指針を得られると思います。
https://rhcr.info/aha-statement-on-standards-of-professional-conduct/
[update history: Apr. 18, 2022]
小原淳「訳者解題より抜粋: Ch・クラーク『時間と権力――三十年戦争から第三帝国まで』小原淳・齋藤敬之・前川陽祐訳」 2021年8月6日。
https://www.msz.co.jp/news/topics/08968/
ビジネスモデルとビジネス・システム
[update history: Dec. 10, 2021; Jan. 10, 2022]
ビジネスモデルとは?
□ビジネスモデルの代表的研究者であるAmitとZott (2001)では、
「ビジネスモデルとは、事業機会を活かすことを通じて、価値を創造するために
デザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である
(Amit & Zott, 2001; 入山, 2019)」と定義されている。
□入山(2019)によれば、学術的にビジネスモデルの定義は定まってはおらず、
各研究者の定義の共通項として
(1)ビジネスモデルは「価値を生み出す」
(2)ビジネスモデルは様々な要素・関係性を「総合的につなぎ合わせたもの」
という2点があげられる。
□一方、伊丹(2009)は、
「ビジネスモデルとは、製品やサービスを顧客に届けるまでの仕事の仕組みを指す
『ビジネスシステム』と、収益を上がるためのビジネスの仕掛けを表す『収益モデル』
が組み合わさったもの」と捉えている。
ビジネス・システム
□経営史研究では、その大きな目的の一つとしてビジネス・システムの変化の解明が取り組まれてきた(川邉、2015;宮田、2021)。
ビジネス・システムという概念は、Thomas C. Cochran (1957)において用いられ、その後Arthur Cole (1964)らによって発展した。
そこでは、明確な定義づけはなされていないが、すべての産業部門から形成される一国全体の制度的構造であることが示唆されていた(酒井、1967)。
その後、ビジネス・システムは、より多義的に捉えられ、経営史研究では、国全体の企業システムに加え、産業レベル、特定企業レベル、各事業所レベルにおけるビジネス・システムについての検討や考察がなされ、経営学研究では、より企業レベルの分析が中心となっていった(酒井、1967;大東ほか、2007;加護野忠男ほか、2016)。
※なお、経営学研究者は「ビジネスシステム」と表記する傾向にある一方で、経営史研究者は「ビジネス・システム」と表記する気がする。
今後のビジネス・システム研究
□ビジネス・システムという用語の多義性から、同概念は、各ミクロな研究を包括するキーワード、あるいはキャッチフレーズとして扱うことが一つ考えらえる。
□あるいは、そこから一歩進めて、「ビジネスのメタシステムの進化」としてのビジネス・システム研究もありうる。
これは、単に経営史研究だけにとどまらず、経営理論では説明できないビジネス(入山、2019)に向けた理論構築への貢献の可能性があるかもしれない。
「ビジネス」の理論としての経営史研究は、近年注目が集まっている歴史的組織研究(historical organization studies)あるいは新しい経営史(new business history)という主に経営理論に向けた研究とは、また違ったアプローチが必要と考えられる。
しかしながら、経営史研究は、歴史研究と経営研究の間にあり、事実発見の重要性がまず第一である。
それに基づいて、「ビジネス」の歴史像の構築に向かうのか、あるいは「ビジネス」の理論貢献に向かうのかは、各経営史研究者に委ねられるだろう。
いずれにしても、A.D.チャンドラーの研究などから一つの到達点に達した経営史研究は、次の学術的発展に向かう時期におり、面白い可能性を秘めているのである。
参考文献
伊丹敬之(2009)「ビジネスモデルの軸は収益モデルではない」ITmedia エグゼクティブ。
入山章栄(2019)『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社。
加護野忠男・山田幸三(2016)『日本のビジネスシステム』有斐閣。
川邉信雄(2015)「統一論題について」『経営史学』第49巻第4号,66-72頁。
酒井正三郎(1967)「ビジネス・システムと経済発展」『経営史学』第2巻第1号,1-12頁。
大東英祐ほか(2007)『ビジネス・システムの進化』有斐閣。
西野和美(2015)『自走するビジネスモデル』日本経済新聞社。
宮田憲一(2021)「『経営史の風景』の広がりを考える (全国大会報告)」『経営史学』第56巻第1号,54-56頁。
歴史的組織研究と歴史的ビジネス研究の間(工事中)
[update history: Jan. 9, 2022; Jan 10, 2022]
アメリカにおける経営史研究の形成・発展期
グラース
コクラン、コール、チャンドラー
吉原(1968)は、その状況をマクロ経営史とミクロ経営史とに分け、前者の代表としてシュンペーター、レドリック、コクランの枠組みをあげ、後者の代表にチャンドラーの研究をあげた(なお、宮田個人の見解としては、対象は異なるが、チャンドラーもマクロ経営史と考えている)。ただ、両者とも、企業の革新的行動の中でも、管理組織のみを対象とし、また「過程志向的」あるいはプロセスに着目していない点で、限界があるとした。そしてそうした限界を克服したミクロ理論の一つとして、サイモン、マーチ、サイアートに代表されるカーネギー学派の企業行動理論をあげ、革新の行動科学的理論が経営史学にとって有力な分析ツールになると主張した。
その後、国内外の経営史学領域において、研究方法を積極的に全体で議論することはなかった印象である(もちろん一部の研究者は議論していた)。しかし、2000年に入り徐々に方法論について論考が増え、2010年代以降、ヨーロッパの組織論研究者と経営史研究者を中心に、「historic turn」というフレーズとともに、歴史的組織研究(historical organization studies/HOS)あるいは新しい経営史(new business history)といったアプローチから、歴史的研究が展開されている。ここでの議論は、経営史研究は、従来の「history of management」ではなく、「history in management theory」あるいは「history to management theory」に向かい、歴史歴研究を通じた経営理論への貢献を目指していく必要があると主張していると理解できる(Üsdiken and Kipping, 2021)。
こうした議論は、日本においても展開され始め、例えば、山内ほか(2021)などがある。経営史学会の黎明期の議論と関係づけると、この山内(2021)で示される「プロセス」研究の重要性は、吉原(1968)が主張したミクロ経営史における行動科学的理論の発展したものと捉えることができよう。こうしたミクロな視点での経営史研究と、それと接近するHOSによる経営理論への貢献という流れは、確かに一つの解である。しかし、マクロな視点での経営史研究による理論的貢献も可能性がなくなったわけではない。
経営理論は、ビジネスの一側面を説明はできるが「ビジネス」全体を説明ないという議論がある(Donaldson & Walsh, 2015; 入山, 2019)。このビジネスの全体の説明を試みようとしていたのが、初期の経営史研究のキーワードの一つであったビジネス・システム研究であったといえそうである(チャンドラーも「戦略と組織」というかたちでビジネス全体の説明を試みようとしたのではないかともみれる)。経営史研究を他の経営領域の研究との比較からみた場合、その一つの特徴として、「全体性」が考えられる(そして、ヒックスがいう経済史の役割が、おそらく経営史にも当てはまる)。ここから、改めて「ビジネスの理論」に向けてマクロな経営史研究を再構築の可能性が残されている。これは、HOSのような経営史研究を、各経営理論のへの一部へと取り込むのではなく、ビジネスの理論を構築していくための主要な研究と位置付けることができそうである。HOSに倣えば、歴史的ビジネス研究(HBS / historical business studies)とでもいえようか(歴史経営学ともいえそうだが、ビジネスということで経営より広い対象を領域とできると思う)。
しかし、HBSは、旧来のビジネス・システム研究のままでは、history of managementとの関係から、新しさはないだろう。HOSが、経営学の様々な理論的発展を踏まえた上で議論されているように、もしHBSというテーマを掲げるのであれば、同様にこれまでの関連する隣接領域の研究成果を踏まえた議論が必要である。どのような議論が必要であるのか、現時点ではわからない。ただ、「ビジネス」と同様に大きなテーマである「イノベーション」に関する様々な議論は、一つの参考になるかもしれない。その際、「イノベーション」が、経済や社会に対して、新たな経済的価値を生み出す源泉であるならば、「ビジネス」は何なのだろうかと考える必要が出てくると思う。そして、その歴史を研究する経営史(ビジネス・ヒストリー)は、どのような像を提示できるのだろうかを常に考えておく必要があると思う。いずれにせよ、旧来のようなマクロとミクロという区別を超えて、両方を射程に捉え、ビジネスの理論に向けた研究が必要になってくると思われる。
参考文献
Donaldson, Thomas and James P. Walsh. (2015) Toward a Theory of Business. Research in Organizational Behavior 35, 181-207.
入山章栄(2019)『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社。
The Editors. (2017) Debating Methodology in Business History. Business History Review 91:03, 443-455.
山内雄気・井澤龍・久野愛・宮田憲一(2021)「全国大会報告 経営史は社会をどう描くのか」『経営史学』第56巻1号、50-56頁。
吉原英樹(1968)「経営史学と革新の行動科学的理論」『経営史学』第3巻第3号 、56-82頁。
Behlül Üsdiken and Matthias Kipping (2021) History in Management and Organization Studies: From Margin to Mainstream, Routledge.
歴史的組織研究の「歴史」とは何なのか(工事中/Under construction)
[update history: June. 1, 2022]
『組織科学』第55巻第4号にてHOSが特集された。おそらく日本で初めてのHOS特集ではないかと思う。その特集号の巻頭論文である酒井・井澤(2022)は最新事情を的確に整理しており、現在のHOS領域の概略を理解する上でとても参考になる。
そこでは、下記で議論したCoraiola et al. (2021)のHOSは、実はHOSの一部であり、全ててではないと指摘されている。
酒井・井澤(2022)によれば、Coraiola et al. (2021)は、海外での研究のメインストリームではあるが、5分類のうちの1つであり、もともとHOSは、歴史的研究をより広い意味で捉えていたことが指摘されている。(続きは後で)
参考文献
井澤龍(2022)「イギリスのビジネス・アーカイブズと企業史料: 何を残したのか、残されているのか」Research Paper Series(東京都立大学経済経営学部・経営学研究科) No. 35。
酒井健・井澤龍(2022)「経営・組織論研究における歴史的転回:その軌跡と針路」『組織科学』第55巻第4号、4-14頁。
[update history: Jan. 24, 2022]
歴史的組織研究(以下HOS)における「歴史」とは何を指すのだろうか。これについては、これまでのHOSを簡潔に振り返っているCoraiola et al. (2021)が理解しやすい。
彼らは、Nora (1989)やZerubavel (1996)を引用し、HOS研究における「歴史」概念について、もう一つのキーワードである「集合記憶」との比較から説明している。
HOSの「歴史(history)」とは、
(1)"the tale told by a foreign explorer," あるいは "the product of purposeful research and writing that take place in the present and looks back at the past"とされる。
(2)そしてそれは、"discontinuity and distance between the actors of the past and the authors of history"と考えられる。
(3)さらに、"an identifiable author whose authority about the past attached to the sources used to tell the tale"という特徴をもつ
HOSの「集合記憶(collective memory)」とは、
(1)"the recollection of shared experiences," あるいは、"narratives that are passed down (discarded) from generation to generation"とされる。
(2)そしてそれは、その"narratives"を通じて"what is remembered (forgotten)"が広まる。
(3)"emergent and has no clear author"であり、"provided by a specific mnemonic community's traditions and beliefs"という特徴を持つ
つまり、両者は、それぞれ違いがあるわけだが、"過去(past)"に関する"alternative perspectives"であり、相互補完的するときもあれば、矛盾するときもあると位置づけられる。そして、現在のHOSでは、両者の明確な区別をせずに議論さているため、これからは、両者の違いをより意識しする必要があると主張している。
こうした歴史と集合記憶の違いについて、少なくとも経営史領域については、意識されて議論されてこなかったと思う(その必要がなかったため)。その意味で、HOSがこうした歴史哲学的な議論を展開し、組織論や経営学領域でより精緻化させようという点は、経営史研究についても議論を深める一つのキッカケになるのではないかと考えられる。
とはいえ、多くの経営史家にとっては、"history"が前提であり、そうした抽象的な議論よりは、実証研究を通じた新たな事実発見に時間を使いたいと考える気もする。一方で、経営史研究の成果を多少でも一般化する方向につなげていく上では、こうした議論も必要であるとも思う。こればかりは、各研究者の「やりたいこと」次第な気がする。どちらのタイプがいても良いと思う。
個人的には、改めて言われてみれば当たり前なのだけれど、"past"に関する複数のperspectivesの存在を改めて意識できたのは面白かった。この点は、理論に向かわない研究者も、自分の"past観"はなんであるのかを意識しておくことで、同じ"past"を話をする際のスムーズな議論につうながるのではないかと感じた。
※表は、Coraiola et al. (2021)での用語をもとに、HOSの領域について仮で考えてみたもの。
参考文献
Diego Coraiola, Amon Barros, Mairi Maclean, William M. Foster (2021) History, memory, and the past in management and organization studies. Revista de Administração de Empresas 61:1, 1-9: here.
Pierre Nora (1989) Between memory and history: Les lieux de Memoire. Representations 26, 7-24: here.
Eviatar Zerubavel (1996) Social memories: Steps to a sociology of the past. Qualitative Sociology 19:3, 283-299: here
歴史的組織研究のいうレトリカル・ヒストリーとは何か(工事中)
[update history: June. 1, 2022]
酒井・井澤(2022)によるHOSの先行研究整理において、レトリカル・ヒストリーは以下のように捉えられている(続きは後で)
参考文献
井澤龍(2022)「イギリスのビジネス・アーカイブズと企業史料: 何を残したのか、残されているのか」Research Paper Series(東京都立大学経済経営学部・経営学研究科) No. 35。
酒井健・井澤龍(2022)「経営・組織論研究における歴史的転回:その軌跡と針路」『組織科学』第55巻第4号、4-14頁。
[update history: Jan. 25, 2022]
歴史的組織研究(以下HOS)の重要な成果のひとつに、レトリカル・ヒストリーの導入があるといわれている。レトリカル・ヒストリーとは改めて何なのだろうか。以下、勉強のために、下記の参考文献をもとにして、社会学において展開されるレトリック論を参考に、HOSのscientific rhetoricについて考えたことを箇条書きメモ
一言でいうと、つまりHOSは、「議論の組織論(「議論する組織」観に基づく研究)」あるいは「説得の経営学」を目指しているのかなと感じる。
HOSにおけるレトリカル・ヒストリーの定義は、例えば「企業の重要なステークホルダーを管理するための説得戦略として過去を戦略的に用いること(松尾、2019b)」とされるようである
レトリックの目的は、聴衆を説得することと言われる(松尾、2019b)。
HOSの「レトリック」は、おそらくペレルマンの「新しいレトリック」に影響を受け、C・ギアツの主張も背景に、1980年代の人文・社会科学分野に登場してきた「探究のレトリッ ク Rhetoric of Inquiry」 の流れを組んでいると考えられる(氏川、2005, 2006)
HOSにおける「説得」や「議論」の定義はまだ不明だが、例えば林原(2011)の「主張(claim)と理由(reason)の組合せからなるディスコース」が一つのヒントになるかもしれない。
ただ、HOSがポスト・モダンとどういう関係なのかはよくわからない(historyの捉え方も、単純にヘイドン・ホワイトを受け入れているとは感じられない)
HOSは、企業や組織の「レトリック」における「ヒストリー」の使い方に着目することで、レトリカル・ヒストリーの機能である(1)組織アイデンティティ、(2)真正性(authenticity)の獲得、(3)正当性(legitimacy)の獲得、(4)組織文化の変革・維持についての新たな知見を提供できると考えていそうである(松尾、2019b)。
HOSは、「ヒストリー」の意味合いが、一般的に想起されるものと違うため、なんとなく理解が難しく感じてしまう気がする。現時点での自分なりの解釈は、「歴史的要素」を用いた「説得」プロセスの解明を通じて、組織的事象を考察していく研究領域というものなのかな。
HOSのアプローチから、どのような理論的示唆が得られるかはまだよくわからない。例えば、説得の仕方で「資源動員」の正当化が分かれて、イノベーションの発生に違いが出るとかなのだろうか。あるいは、組織アイデンティティがロックインされて、組織行動のあり方が一定となって、知識創造のあり方に違いが出るとかなのだろうか。いずれにしても、最近になって急速に議論が発展しているため、ここからどんな展開があるのか興味深いことは確かである。
参考文献
氏川雅典(2005)「R・H・ブラウンのレトリック論-その『詩学Poetics』と『政治Politics』」『ソシオロゴス』第29号 、35-51頁。
氏川雅典(2006)「ペレルマンのレトリック論-『普遍的聴衆』論の再検討」『ソシオロゴス』第30号 、50-70頁。
林原玲洋(2006)「論証役割とメタファー:レトリック分析の社会学的可能性の社会学的可能性に関する一考察 」『先端社会研究 』第4号 、475-493頁。
林原玲洋(2011)「『レトリックを使う』とはいかなることか:媒介的価値の遡及的な分節化 」『人文学報 』第437号 、95-126頁。
松尾健治(2019a)「レトリカル・ヒストリーとその失敗のメカニズム:見過ごされてきた論点と今後に向けた方法論的考察」『經營學論集』第89集第45号、1-8頁。
松尾健治(2019b)「レトリカル・ヒストリーによる意図せざる結果についての歴史的事例研究」『碩学舎ビジネス・ジャーナル』第89集、1-17頁。
経営戦略論における歴史の扱い方(工事中/Under construction)
[update history: June 1, 2022]
Argyres et al. (2020) は、「歴史洞察の戦略研究(History-informed strategy research、以下HiSR)」の重要性を提起している。
HiSRでの、歴史的研究方法とは,考察対象を歴史文脈的に(contextualized)説明・解釈することをめざして,一次資料や二次資料の収集・編纂,説明,批判的分析のために用いられる諸技術を指している。
HiSRは,この方法を用いる研究(”history to theory” direction),および/または理論や実証分析の主要素(または変数)として歴史を活用する研究(”history in theory” direction)という二面性をもった戦略研究を指す。
そしてHiSRは、以下のような課題に対するその有効性を提示している。
[”history to theory” direction]
①長期間のデータセットによる考察
②反事実的な考察
③what-if的考察
④複雑な戦略現象の解明に向けた深く包括的な歴史事例の考察
[”history in theory” direction]
⑤非制御変数としての歴史的文脈の影響の考察
⑥組織変化やイノベーション等に対する過去の影響の考察
⑦戦略形成プロセスに対する各時代の影響の考察
(続きは後で)
参考文献
Argyres, N. S., De Massis, A., Foss, N. J., Frattini, F., Jones, G. & Silverman, B. S. (2020). History-informed strategy research: The promise of history and historical research methods in advancing strategy scholarship. Strategic Management Journal, 41(3), 343-368. here
宮田憲一(2022)「企業ドメインの歴史性:ウェスチングハウス社の企業転換に関する事例研究 」『組織科学』第55巻第4号、27-38頁。
[update history: Feb 14, 2022]
経営戦略論において「歴史」はどのように扱われてきたのだろうか。この点について、以下のようにSuddaby et al (2020)は分かりやすく整理している。
(1)「歴史」はマネジメントの範囲外である:外因的要素としての歴史
(a)明示的な「歴史の役割」を示す研究:e.g. strategy and structure (Chandler, 1962), path dependence (Arthur, 1994), and technological lock-in (David, 1985).
(b)暗示的な「歴史の役割」を示す研究:e.g. geographic clusters (Porter, 1998), the resource-based view (Barney)
(2)「歴史」はマネジメントの範囲内である:内因的要素としての歴史
アイデンティティの創造、変化の促進・阻害する「歴史的ナラティブ」:e.g. the British monarchy (Hobsbawm & Ranger, 1983), the nation-state (Anderson, 1983; Duara, 1995), and the church (Koselleck, 2004)
HOSが対象とする歴史的「戦略」研究は(2)になるといえるが、(1)もまた引き続き重要な研究である。(1)と(2)の一つの相違は、(1)が歴史を組織に影響を与える要因のone of themとしてみる一方で、(2)が歴史を組織そのものを構成する要素としてみるというものかもしれない(この点はまだ不明)。
参考文献
Roy Suddaby, Diego Coraiola, Charles Harvey, and William Foster (2020) History and the micro-foundations of dynamic capabilities. Strategic Management Journal 41: 3, 530-556: here
歴史と経営史:(工事中/Under construction )
[update history: Jan. 11, 2022]
理論と経営史を考えると同時に、歴史と経営史も考える必要があると思う。後で書くことを忘れないため、とりあえずタイトルだけ
歴史学=記憶と過去の事実を扱う学問領域(仮)
歴史=歴史学の営みから生み出された学術的成果(仮)
企業と市場:(工事中/Under construction )
[update history: Mar. 4, 2022]
市場と企業は、経済学と経営学領域では古典的かつ重要なトピックとして議論され続けていると思う。後で、議論の整理を書くことを忘れないため、とりあえずタイトルとメモ
マクミラン(2007)の言葉に沿って、市場と企業の対比を考えてみたメモ
マクミランの「市場」:市場経済の主な利点は、「悪人たちのもたらしうる害が最小となるシステム(F. A.ハイエクを引用)」
➡企業:企業組織の主な利点は、人々の利潤動機のもたらしうる便益が最大となるシステム
マクミランの「見えざる手」:分散した情報を活用し、経済をコーディネートし、取引利益を創出することで、効果的に作用する
➡見える手:集中した知識を活用し、市場をコーディネートし、生産利益を創出することで、効果的に作用する
マクミランの「市場システム」:民主主義のようなもの
➡企業システム:専制主義のようなもの
以上は、あくまで思考の練習。企業にも市場のような特徴が含まれている場合もある気もするし、それこそカリカチュアかもしれない(例えば、知識自体にも形式知と暗黙知が両方内在しているように、企業にも両方の特徴が内在しているかもしれない)。ただ、こうした対比した見方は、議論を単純化することで、思考の整理の開始には便利。
参考文献
ジョン・マクミラン(2007)『市場を創る:バザールからネット取引まで』NTT出版。
過去をどうつなげるか(工事中/Under construction )
[update history: Dec. 24, 2021]
経営を研究する中で、過去の事象にどう関心を持てるのか?という問いは、歴史「的」、あるいは経営史「的」アプローチから現在を考察しようと考えている際に出てくるものかもしれない。
少なくとも以下三つの考え方がある。
(1)比較の視点
ある類似した現在と過去の状況のアナロジーを考える(時代比較)
例えば、清水(2021)
(2)進化の視点
現在の状況に対する経路依存性、あるいは過去から現在の連続を考える(連続と断絶)
例えば、橘川(2004)
(3)実験の視点
現在の「big issue(大きな課題)」や「big topic(大きな主題)」の考察に向けた実験として考える(自然実験)
例えば、清水(2016)
HOSについてはstay tuned
参考文献
橘川武郎(2004)『日本電力業発展のダイナミズム』名古屋大学出版会
清水洋(2016)『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション』有斐閣。
清水剛(2021)『感染症と経営』中央経済社。
歴史研究を進めるアプローチ(工事中/Under construction )
[update history: Aug. 22, 2024]
歴史研究としての経営史研究を考えてみると、それは新しい視点から既存資料や新資料を用いて、新しい事実発見を追及し、その積み重ねをもとに既存の歴史像の修正・刷新、あるいは新しい歴史像の構築に向けた研究活動といえるかと思う。
上村剛(2024)を参考にすると、そうした歴史研究の営みに向けて少なくとも以下三つのアプローチがある
(1)アクター(人物)の拡大
研究対象とする「それ」が、既存研究では一部の人たちに偏って描かれている場合、他のアクターはいないのか?という疑問から研究を進める。
これは「社会史、文化史、ミクロで日常的な歴史の視点」を取り入れた研究アプローチである。
経営史研究においては、カリスマ創業者や経営者(e.g.スティーブ・ジョブズ、ジャック・ウェルチ)など特定の人物の視点から記述される場合があるが、他の従業員はどのように経営活動に関わっていたのかといった視点を考えることで、そうしたカリスマ的人物を相対化させ、ヒーロー的歴史叙述から脱した、経営や企業の歴史像を構築できる可能性がある。
(2)スケール(場所)の拡大
研究対象とする「それ」が、既存研究では一部地域の状況に偏って描かれている場合、他の地域は関係ないのか?という疑問から研究を進める。
これは「大西洋史、帝国史、グローバル・ヒストリー」といった歴史学の新たな方法を取り入れた研究アプローチである。
経営史研究においては、例えばその国の国内の状況を前提とした視点から記述される場合があるが、その前提条件に影響を与えている国際関係などインターナショナルやグローバルな視点、あるいは同時期の中心ではない国内地域の関りなどインターローカルな視点を考えることで、そうした特定の中心地にもとづく歴史叙述から脱した、経営や企業の歴史像を構築できる可能性がある。
(3)タイムスパン(時間軸)の拡大
研究対象とする「それ」が、既存研究では特定の時期の終わりや始まりに偏って描かれている場合、他の時期との関係ないのか?という疑問から研究を進める。
これは連続と断絶といった経済史・経営史研究でみられる研究アプローチといえそうである。
経営史研究においては、たとえばある制度の始まりや終わりを特定のイベント(戦争、法律制定etc)を前提とした視点から記述される場合があるが、より長い時間軸の視点で考えることで、その特定のイベントは過渡期に過ぎないといったかたちで相対化させ、そうした特定のイベントの過度な評価にもとづく歴史叙述から脱した、経営や企業の歴史像を構築できる可能性がある。
参考文献
上村剛(2024)『アメリカ革命』中公新書。
経営史ってどういう学問なのか?(工事中/Under construction )
stay tuned
「研究対象」としての経営史
企業の歴史
経営管理(マネジメント)の歴史, history of management
下からの経済の歴史
ビジネスの歴史
企業と社会の歴史、history to / in public
「アプローチ」としての経営史
新たな歴史像構築としての経営史研究、経済史、文化史、社会史などとの融合
歴史分析としての経営史研究
歴史的組織研究(HOS):経営理論に向けた経営史研究、history to / in theory
企業の内部分析を踏まえた歴史研究
「政策提言」としての経営史
応用経営史
歴史からの教訓